旅立ち
伊豆在住/東京出身/人間国宝島岡達三氏の一番弟子でもあられた陶芸家土屋典康さんが旅立たれた。この間の土屋さんの個展の日、私たち夫婦は、母が昼寝をしている間に、銀座たくみの個展の初日にお伺いした。お客様で混雑している2階の奥をみても、いつものように椅子に座った典康先生のお姿がみえず、奥様に経緯をお伺いした。
先生は、43歳の時、解離性大動脈瘤で余命5年と宣告されたにもかかわらず、それから38年も作陶し続け、2年前に白血病と診断を受けておられた。
夏休みのくれ、海外在住のお孫さんたちが帰省中、お孫さんと一緒に作陶中、いつもの道で、なぜか転んでしまい頭をうち出血が止まらず病院に運ばれ、そのまま旅立たれたのだそう。納骨のみでお葬式はしないという御意志だったのだそう。先生らしい、世の流れにはんしたとてもシンプルなすばらしい旅立ち。私は、両親の縁でご縁をいただき、先生の陶器と土屋さんの作られたお宅、そしてご夫妻と、ご家族のたたずまいが大好きで、お宅にうかがうたび、身にしみいる大切なことを教えていただいた。
そして、先生の本当に大切にされていたことが、奥様が書かれたブログの中の2行の文章につまっていて、涙があふれた。
「自分が信じた道は、多くの人が違うと言っても進んでいく人でした。有名や流行りは嫌い、お金儲けも興味なく、ただ一生懸命に行き、仕事をしてきた人だったと思います。」
大変失礼ながら抜粋させていただきました。
クリエイターにとっては、有名になったり、成功したりすることが一番大切だと思い込ませられる流れは強烈で、気づかぬ間に、洗脳されて、自分を見失ってさまよう。けれど、それが重要なのではなく、ただ自分が本当に作りたいものを作ること、それを懸命にやり続けること。そのことにしか生命を燃やす意味はない。生きて死ぬことは、それくらいシンプルなことなのだろうとあらためて先生の思いが心にきざまれた。
有名になって成功して大きな葬儀をあげてたくさんの人におしまれて幸せだと思うことと、惜しまれる方々がたくさんいても、あえて葬儀をせず、静かな自宅、自分で作った陶器の中にひっそりおさめられたお位牌。そのどちらがいいかなどとは、本当のところは誰も知らない。けれど、私は、どんな場合にも、そぎ落とされたシンプルなことに魅力を感じるし、それこそが自然に近い本来の人間の姿だとあらためて気づくことができた。
先生にお会いできたことに心より感謝します。
コメント
コメントを投稿